【ナラティブセラピー(物語療法)】

ナラティブセラピー(物語療法: Narrative therapy)とは、社会構成主義やポストモダンの影響を受けて練磨されつつある精神療法の一種である。

治療者とクライエントの対等性を旨とし、クライエントの自主性に任せて自由に記憶を語らせることによって、単なる症状の除去から人生観の転換に至るまで、幅広い改善を起こさせることを目的とするもの。PTSDやアダルトサヴァイヴァーの治療に広く用いられます。

起源としては、「精神的に苦しんでいる人の話を聴いてあげる」というかたちで、精神療法として正式に名づけられるよりも先に、古くから人間社会のなかで自然に存在したと思われています。

定式化された精神療法としては、19世紀末のジークムント・フロイトによるお話し療法、除反応、自由連想法、また同時代のブロイアーによるカタルシス療法などが創成期のものです。

一般には、自由連想法こそがナラティブセラピーの原点のように考えられているきらいもありますが、治療者の誘導よりも患者の主体性と意思が尊重される点では、お話し療法や、のちのユング派の分析心理学などに近いとも言えます。

むしろ、クライエントが自発的な心構えを準備してセラピーに臨み、能動的想像法の要素も色濃い「体験を回想し物語る」という行為は、20世紀前半に入ってフロイト派精神分析に、ユング派分析心理学がたぶんに融合して生成してきたと考えるべきです。

20世紀後半に入って、アメリカにおいてベトナム戦争後のASD被害者や、家庭内暴力や性的虐待を受けた被害者のPTSD治療の技法として、またアルコール依存症をはじめとした各種の嗜癖に悩む人々の自助グループのミーティングなどにおいて、さらにポストモダニズムなどを背景とした新しい医学思想の流れを汲みながら家族療法の分野から出ていた概念として、飛躍的に展開と発達を遂げ現在に至っています。

物語という概念は、ナラティヴセラピーを考える上で鍵となるものです。私たちは過去の体験を語るとき、それは巧拙を問わず「物語」として語ります。また他人の経験も「物語」として把握します。

さらに人は「物語」を演じることによって人生を生きているともいえます。また、古典的な精神分析などにおいては物語は解釈にあたります。

フロイト派もユング派も、かつての精神療法は、治療者はクライエントの一段上に立っており、間違った物語に囚われている患者を治療者が正しい物語へと導くという進展が一般的でした。

しかし、社会構成主義によれば、どのような物語になるかは平等な主体どうしの主観の持ち方、すなわち「ものの見方」の問題であり、「正しい」物語も「間違った」物語もなく、ましてやどのような主観にも依拠しない「客観的な」立場から見た解釈や物語も存在しないということになります。