認知行動療法とは、物事に対する認知を変えることで、行動の変容を促す技法の事です。心理療法の中でも比較的新しく発展してきた領域で、意識の存在を軽視する行動療法に対する批判から、人間の意識的な認知作用を再び重要視する流れのもと生まれました。
行動療法の発展とともに、目に見える行動を修正するためのさまざまな技法が活用され洗練されてきましたが、実際に人間の行動を観察したとき、一定の刺激が必ずしも同じ反応を誘発するするわけではないということが論じられるようになりました。
例えば、仕事でミスをして叱責を受けるなどの出来事(オペラント条件づけ「抑制」)が生じたとき、その事実に対して「ミスしてしまった。でもこれくらいならすぐ取り戻せる。」と考える人がいる一方で、「ああ、またやってしまった。これで○回目だ。私はこの仕事に向いていないに違いない。いや、私なんて何をやってもダメなんだ。」と考える人もいます。
その出来事や自分自身についての考え方、捉え方の違いが、さらにその後の本人の思考や感情、行動に影響しているという事実を考慮せざるを得なくなったためです。
そこで、クライエントの内部で起こっている思考や推論のプロセスに焦点をあて、「刺激と反応は直接的な因果関係ではない」「人は単に刺激に反応しているのではなく、刺激を解釈している」という、行動変容過程の中での予期や判断といった認知的活動の果たす機能を重視する発想が生まれました。
こうして今日心理臨床の場で広く活用されている認知行動療法が開発されたのです。
認知行動療法とは、行動療法の理論に上記のような認知過程に関する理論を組み入れ、思考、知覚、判断、自分自身に言っていること、暗黙の前提など、情緒や行動の混乱を引き起こしていると考えられる、歪んだ思考パターンを変える(認知的再構成を行う)心理療法と言えます。
認知行動療法には、D.H.マイケンバオムの自己指示法、A.ベックの認知療法、A.エリスの論理療法などがあり、現在では主にうつに苦しむ人々のための心理療法として絶大な効果をあげています。
【参考文献】
宮川 純『臨床心理士 指定大学院対策 心理学 編』河合塾KALS監修 講談社