「認知症」とは、失語症以外の脳障害の代表例として挙げられます。認知症は、一度成熟した知的機能が脳の障害によって広汎に継続的に低下する状態を指します。
特に頻度が高い認知症がアルツハイマー病です。アルツハイマー病は、海馬の障害からはじまり、新しい情報が記憶できなくなる(順向性健忘)。さらに進行とともに大脳の萎縮が起こり、過去の記憶の障害が目立つようになる(逆向性健忘)。
女性患者であれば、結婚前の旧姓で呼ばないと反応しないほど、若い頃の記憶が障害されることもあります。
アルツハイマー性の記憶障害は、老化に伴う物忘れと区別されます。老化に伴う物忘れの場合、たとえば食事したことは覚えているが、どこに食事に行ったのか思い出せない(想起・検索の困難さ)。
これに対し、アルツハイマー性は「食事に行ったこと」そのものを覚えていない(記銘・保持の困難さ)。
このように、出来事そのものを忘れてしまう場合は、アルツハイマー性の記憶障害が疑われます。日時や場所など自分の置かれている状況を正しく確認する能力を見当識と言います。
アルツハイマー病の進行に伴い、この見当識も傷害されていきます。今がどんな季節なのか、自分が何処にいるのかがわからなくなり、道に迷ったり徘徊したりするようになります。
このような症状は患者本人だけでなく、介護者の介護負担を増大させます。そのため、正しく認知症を理解するための家族教育と、薬物療法や介護施設を併用して介護者が燃え尽きないようにする環境調節が重要とされるでしょう。
【参考文献】
宮川 純『臨床心理士 指定大学院対策 心理学 編』河合塾KALS監修 講談社