「発達障害」とは、先天的に幼少期から主に認知や行動面で発達の遅れが見られることを、発達障害と言います。
かつて発達障害は、親の不適切な養育やしつけ不足、虐待などで生じるとされていましたが、現在では完全に否定されており、脳の機能障害と考えられています。
つまり、発達障害は親の養育態度とは無関係です。
発達障害は、IQ70以下を示す知的障害(精神遅滞)、自閉症スペクトラム障害、特異的発達障害の3つに分類されます。
【自閉症スペクトラム障害と3つの行動特徴】
自閉症スペクトラム障害は、発達障害の1つです。かつて、(DSM-IV-TRまで)は、広汎性発達障害と呼ばれており、自閉性障害、アスペルガー症候群、レット障害、小児期崩壊性障害などの下位分類が存在していました。
これらの下位分類は、程度の差はあれ、3歳以前に以下の3つの特徴を持ちます。
①社会的相互作用の障害
他者と目を合わせられない。対人関係の形成・維持の困難さ。情緒的相互性の欠如。
②コミュニケーションの障害
話し言葉の遅れ。会話を開始し継続することの困難さ。言葉を覚えるのが困難で、覚えても会話がかみ合わない。
③想像力の障害
限局された興味対象への過度な集中。習慣へのこだわり。常同行動(同じ遊びや行動を続けること)。
上記以外にも、極端な感覚過敏や感覚鈍麻、そして視覚過敏や視覚鈍麻を示すことがあります。特に、突然の大きな音で混乱し、パニック状態に陥ることがあります。
【広汎性発達障害の下位分類】
①自閉症障害
3つの行動特性が3歳頃までに明確に認められます。知的障害(IQ70以下)を伴う場合が多いが、伴わない場合は高機能自閉症と呼び、区別することもあります。
②アスペルガー症候群
コミュニケーションの障害が少なく、知的障害・言語障害を伴わない者をアスペルガー症候群と呼ぶ(高機能自閉症との明確な区分はなされていない)。
③レット症候群
女児のみ発症する。5ヶ月頃までは正常発達をたどるが4歳頃に頭部の成長が減速し、重度の精神遅滞と自閉性傾向を持つようになります。
④小児期崩壊性障害
2歳頃まで正常発達をたどるが、3歳以降正常発達が停止し退行して行きます。
⑤特定不能の広汎性発達障害
上記の基準を満たない広汎性発達障害です。日本ではこのカテゴリーも、慣例的にアスペルガー症候群として診断されることが多いです。
DSM-5において、このカテゴリーは自閉症スペクトラム障害から除外されました(このカテゴリーのうち、想像力の障害がみられない者については、社会コミュニケーション障害という新たな診断名がつきました)。
【広汎性発達障害から自閉症スペクトラム障害へ】
広汎性発達障害の下位部分はDSM-5以降、自閉症スペクトラム障害に統合されました。
自閉症障害、アスペルガー症候群、高機能自閉症などさまざまなカテゴリーが生み出されたが、概念の重複がみられ厳密な区分が困難でした。
例えば、どの程度の言語障害の少なさをもってアスペルガー症候群と診断するか、その判断が困難であることは想像に難しくありません。
高機能自閉症とアスペルガー症候群が同じとみなすか否かについても諸説あり、概念が未整理であることは明らかだからです。
また、周囲の環境や対応・養育の仕方によって困難が重くなったり、軽くなったり変化するため、単純にカテゴリーの枠に当てはまらない場合もあるからです。
カテゴリーに分類することによって、診断名だけで障害を判断してしまい、子供の個々の姿を見失ってしまう危険性もあります。
スペクトラムとは連続体という意味を持ちます。連続体とは、明確な境界線のない、大きな枠組みのことです。
自閉性障害もアスペルガー症候群も、他の広汎性発達障害も、いずれも3つの行動特徴をもち、程度の差はあれ同じ特徴を持った連続体であると言う考えに基づき、カテゴリー分類を廃したものが自閉症スペクトラム障害です。
自閉症スペクトラム障害というグラデーションの濃淡を、子供が揺れ動いているようなイメージで捉えると理解しやすいと思います。
診断名だけで判断せず、日々変化する子供の様子を見守りながら、柔軟に適切に対応する姿勢が求められると思います。
なお、自閉症スペクトラム障害への統合を懸念する声が存在しています。特にアスペルガー症候群という診断名が無くなることで、アスペルガー症候群に対するさまざまな知見や成果が失われてしまうことを懸念する声が強いです。
既にアスペルガー症候群と診断されている人に不要な混乱を与える可能性もあります。
また、統合にあたって特定不能の広汎性発達障害が除外されましたが、日本ではこのカテゴリーも慣例的にアスペルガー症候群として診断するケースが多かったため、結果として診断の枠が狭まったことになります。
いずれにせよ、自閉症スペクトラム障害はDSM-5での大きな変更点であるため、今後の動向や最新情報に注意を払う必要があることは間違いないでしょう。
発達障害は、脳の機能障害が予測されているため、障害を根底から改善することは難しく、薬物療法は必ずしも有効ではないと言えるでしょう。
そこで、「治る」「治らない」ではなく、発達障害児の一人ひとりの個性を尊重し、発達障害児にとって暮らしやすい環境つくりと、適応力を育むことで困難を軽減していけるようなサポートをカウンセリングを通して、発達障害児やご家族へサポートして行けたらと考えております。
その為には、療育がサポートの基本となると考えられます。療育は行動療法的なアプローチが基本となり、適応行動を学習していく形になると思います。
また、TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped CHildren)は自閉症児を支援するための個別教育プログラムで、広く利用されています。
言語ではなく絵で見せて視覚で理解させるなど、自閉症の行動特性に即した対応が重要ではないでしょうか。
自閉症児は、その行動特性から周囲の偏見やいじめなどに合うことがあり、そこから不安障害・気分障害・睡眠障害などの二次的な問題が発生する場合があります。
カウンセリングは主に、この二次的な問題に対して行われると思われます。
家族への心理教育も重要となるでしょう。養育者は自身の養育を責めることが多いと思いますが、自閉症は冷淡な親の不適切な養育で起こる訳ではないことを正しく理解して頂く必要があります。
また、養育の重要性を認識してもらい、親が全ての世話をするのではなく、日常生活や身の回りのことはできるだけ自閉症児自身で行わせることも、将来の自立のために重要になるでしょう。
教育現場では、通所による支援が期待されています。適切な療育によって、多くの自閉症児は成人後に自分の役割を手にすることができるでしょう。
その行動特性をむしろ利点として、集中が必要とされる作業が求められる職に就き、生活をする者も多いと思います。
そういった将来への展望も、自閉症児や家族の療育への動機づけを高めるために重要ではないかと考えております。
【参考文献】
宮川 純『臨床心理士 指定大学院対策 心理学 編』河合塾KALS監修 講談社