【ASD(急性ストレス障害)】

「ASD(急性ストレス障害)」とは、生死や人間の尊厳に関わるようなトラウマ(心的外傷)を経験した後、体験をはっきり思い出したり悪夢として現れたり、そのため過覚醒状態となったり、体験に関したことを避ける傾向が続き、数日から4週間以内に自然治癒する一過性の障害を指します。より長期にわたって持続している場合には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と言われます。

世界保健機関(ICD-10)における診断名は、急性ストレス反応と呼ばれます。この反応についての最初の記述は、ウォルター・B・キャノンが1923年の著書『外傷性ショック』(Traumatic Shock)の中で、様々なストレスに対するアドレナリンの緊急反応について論じたものです。

主な症状は、以下の3つです。

【追体験】
フラッシュバックとも言います。トラウマの原因となった出来事が繰り返しはっきりと思い返されたり、悪夢を見たりする症状のことを指します。

【回避】
トラウマ(心的外傷)に関する出来事や、関連する事柄を避けようとする傾向のことを言います。

【過覚醒】
神経が高ぶった状態が続き、不眠や不安などが強く現れる症状のことを示します。

他に多動傾向などが現れる場合もあります。

臨床症状は、心的外傷後ストレス障害と基本的に同じです。症状の持続期間が1か月以内で持続する場合にはASD(急性ストレス障害)と言われます。またASD(急性ストレス障害)は、著しい苦痛や機能の障害をもたらすことがあります。

【カウンセリング】
4週間以内の短期間の心理療法が用いられることがあります。

世界保健機関(WHO)による2013年のガイドラインが公開されている内容として、抗うつ薬の使用は推奨されていません。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬は、外傷体験からの回復を遅らせる可能性があり、また外傷体験から1か月以内にはこうした薬を用いないように勧告されているからです。

カウンセリングとしては、クライエントさんに対して、同じ境遇の方たちが集う場(エンカウンター・グループ)を設けて、同じ事件の被害者、同じ境遇の経験者がグループになってその体験を語り合い、クライエントさんたち各々が、自分の症状を客観的に見ることができるよう訓練する場所を提供する必要があると思っております。

また、カウンセリングとしてその他の方法としては、「自己受容」のトラウマワークを検討に入れております。



【参考文献】
宮川 純『臨床心理士 指定大学院対策 心理学 編』河合塾KALS監修 講談社