カウンセラーとセラピスト。
似ているようで大きく異なる仕事のようだ。
よくある話に「カウンセリングを受けに行ったのに、カウンセラーが何も具体的なアドバイスをしてくれなかった」という話が出てくることがある。 おそらくそれはセラピーを受けに行ったつもりで、カウンセラーの所に行ってしまったのかもしれない。
逆に「カウンセリングを受けに行ったら、アドバイスをくれるだけで、自分の話を聴いて貰えなかった」という話もある。 おそらくカウンセリングを受けに行ったつもりで、セラピストの所へ行ってしまったのだろう。
どちらの場合もカウンセリングを受けに行っています。それなのにどちらも不満を感じています。これは訪れた人が、カウンセリングとセラピーの違いを理解していないことに原因があるように思える。
しかしそれ以上に、プロ(自称)として働くカウンセラーやセラピストの中にも、自分がカウンセラーなのかセラピストなのか、良くわかっていない人がいることも大きな問題であるように私は感じてならない。
カウンセラーとは「カウンセリング」を行う人(傾聴を中心とする人)、セラピストとは「~セラピー)」を行う人(○○○療法を行う人)と言うことになっていると思う。
セラピストが行う心理療法を「サイコセラピー」と呼びます。サイコセラピーは精神医学から発達したもので、精神科の医師が行ってきました。 医師の場合、対象は具体的な症状を持った「患者」で、目的はその症状を治すことから来ています。セラピストは症状を治すために、具体的な治療=セラピーを行うことです。
一方、カウンセラーが行う心理療法は「カウンセリング」と呼びます。カウンセリングは心理学から発達したもので、医師ではない人が行います。対象は不安や悩みをもった人で、患者とは呼ばずクライエント(来談者・相談者)と呼びます。カウンセリングの目的は、クライエントの内的成長を促すこと。そのためにカウンセラーは、クライエントの話を聴き相談にのります。
つまりセラピストは具体的な治療を行いますが、カウンセラーは医師ではないため治療はしない(できない)。そこが大きな違いです。今では、カウンセリングを行うセラピストもいれば、セラピー(心理療法)を行うカウンセラーもいます。目的の違いをしっかりと認識した上で、使い分けることが大切だと私は思っております。
受動的なカウンセラーと能動的なセラピスト
カウンセラーはカウンセリングの場で、クライエントさんの悩みや相談にのり話を聴きます。カウンセラーが重視するのは、「傾聴」と「共感」、そして「無条件の肯定的関心」とカウンセラー自身の「自己一致」です。 クライエントさんの話を積極的に聴き(傾聴)、こころからの理解を示します(共感)。 カウンセラーの立場はあくまでも「受け身」で、クライエントさんが自ら成長するための手助けをする立ち位置です。
一方、セラピストは患者の症状を聴き、具体的な治療や療法を行います。この場合、「治療」と言う表現を使えるのは、医師もしくは鍼灸師・柔整師など、国家資格で特定の治療行為が認められている人に限られます。それ以外のセラピストの方たちは、「治療」とは言っては駄目で「療法」と言う言い方になります。
セラピストは、患者・来談者(相談者)の症状を治すしたり癒したりするために、能動的にセラピーを行います。患者・来談者(相談者)は、セラピストの指示に従うか、通常はお互いの同意に基づいてセラピーを受けます。
「癒し系セラピー」という新しい分野
これまで、医師が行うサイコセラピーについて話してきましたが、最近では医師ではない人が行う「癒し系セラピー」が増えています。 アートセラピー、アロマセラピー(アロマテラピー)、ミュージックセラピーなどがそうです。
医師でない人が行う癒し系セラピーは、もちろん「治療」ではありません。
アロマセラピー(アロマテラピー)は、アロマセラピスト(アロマテラピスト)が能動的にアロマトリートメントを行い、受け手は一方的にトリートメントを受けるだけなので「セラピー(テラピー)」という意味合いが強いと思います。
一方、アートセラピーは、アートを介したクライエントさんとの会話も大切です。アートセラピストが一方的にセラピーを行うこともありますが、「アートを使ったカウンセリング」という意味合いもあります。
癒し系セラピーの登場で、「セラピスト」という言葉の幅が広がりました。
癒し系セラピーは、治療ではないことから、医師が行うサイコセラピーとは異なります。しかし、「能動的」という側面は共通していると私は思います。そして、その能動的という側面はこれからのこころの仕事にとって、とても重要です。
日本は欧米と違い、悩みがあるからカウンセラーのところに行くという習慣がなかなか根付きにくいと言われています。そんな状況の上に、カウンセラーは基本的な立場が「受け身」なので、自分から仕事をみつけるのが難しい仕事です。しかしセラピストは、能動的に提供できる「~セラピー」(療法)を身につけているため、新しい場所や新しい対象へと、仕事の幅を広げていきやすいです。
心の仕事で収入を得るのはとても大変です。それでも、仕事としては、カウンセラーよりセラピストの方が、仕事の幅を広げやすいと思います。そう言った意味で、今の持っている来談者(相談者)の能力を今以上に発揮させる自己啓発的側面や教育的側面を含んだ「メンタルコーチ」として、運動選手のメンタル的な支柱として支えたり、教育現場での自己育成、そしてスピーチや講演会、舞台での演出などでも、自己のモチベーションと演出のためのアドバイスやアイデアなど、具体的なフォローを依頼者にすることが出来ます。
しかし現在はいろいろなスタイルのカウンセリングが氾濫しており、また一時期急激に増えた数多くのセラピーも、徐々に淘汰されていくでしょう。心理学をしっかりと学び、カウンセリングマインドを身につけ、自分の「軸」を持って能動的に活動できるセラピストが今後は多く活躍する機会が増えるのではないでしょうか。